YouTubeは「殺人プラットフォーム」か|改めて考えたいSNSとの付き合い方Customer satisfaction survey concept, Businessman using computer laptop select smiley face icon with yellow five stars to evaluate product and service.

今年5月、青汁王子こと三崎優太さんがSNSでの誹謗中傷を苦に自殺未遂を図ったという衝撃のニュースが飛び込んできました。しかし、実際には青汁王子にとどまらずSNSでの誹謗中傷が原因となって活動休止や突然の業界引退といった選択をされる有名人の方も珍しくなくなりつつあります。そこで今回は、『YouTubeは「殺人プラットフォーム」か?改めて考えたいSNSとの付き合い方』と題して、考察していきたいと思います。

人気番組「テラスハウス」の打ち切りから考える誹謗中傷の恐ろしさ

2012年10月~2020年5月までフジテレビで放送された「テラスハウス」。「テラハ」の呼称で親しまれた「テラスハウス」は、「台本がない」という台本のもと、ひとつ屋根の下で展開される男女複数人のリアルな生活を垣間見るというコンセプトで制作されたリアリティ番組でした。その人気はテレビの枠を超え、映画の公開やNetflixへも進出。順調に思えた制作でしたが、突如としてその幕は下ろされます。

テラスハウスの打ち切りとその経緯

「テラスハウス」打ち切りの原因となったのは、出演タレントの1人である木村花さんの自死でした。木村花さんは、22歳という若さにして女子プロレスラーとして活躍する中、テラスハウスへの出演を機に、タレントという新たな道を切り開いていく最中の出来事でした。

22歳という若さにも関わらず、自ら命を絶つという選択肢を与えてしまった原因。それは、SNSによる誹謗中傷だったのです。発端となったのは、木村花 テラスハウス内での些細なワンシーンでした。木村さんは、大事な試合で着る予定だったプロレスの試合用コスチュームを洗濯していました。しかし、洗濯機から取り出すことを忘れて外出してしまいます。そうとは知らず、別の住人が自身の洗濯物と一緒に洗濯、さらに乾燥までかけたため、取り出し忘れた木村さんのコスチュームが縮んでしまい、着れなくなってしまったのです。

そのコスチュームは木村さんの「命の次に大事」なものだったそうで、ミスをした住人を激しく叱責してしまいます。それによって、場の雰囲気が一転、険悪なムードに変わってしまいました。後日、ミスをしてしまった住人も木村さんへ謝罪、テラスハウス公式のYouTubeチャンネルにて後日談が投稿されるなどして一件落着かのように思われました。

激化する木村花さんへの誹謗中傷

そんな製作者側の解釈とは裏腹に、TwitterをはじめとするSNSでは、木村さんに対するアンチが激化していきます。その火は鎮まることを知らず、毎日100件余りものアンチコメントを木村さんは独りで読んでいたといいます。そのことを裏付けるように、木村さんのインスタグラムのストーリーには、自身の精神の不安定さを鏡に映したような意味深長な投稿を、しては消すというのが繰り返されるようになっていきました。

そして、「さようなら。」という一文の投稿を最後に更新は途絶えました。彼女がどれほど悩み、苦しんだのかは、最後に選んでしまった選択肢が全てを物語っているように思えます。

YouTubeというプラットフォームがもつ危険性

YouTubeを日々の娯楽として視聴している人も多いかと思います。そこでよく目にするようになったのが「アンチコメントに返答する」という内容の動画。こういった内容の動画の存在は、誹謗中傷コメントの存在の裏付けともいえるのではないでしょうか。

近年では、バーチャルユーチューバーを筆頭に、リアルタイムでのライブ配信もメインコンテンツとなりつつあります。それに伴って過度なアイドル化が進み、現在では、1人で年に数億円のスーパーチャット、いわゆる投げ銭をもらうほどに人気な方もいます。過度なアイドル化によって、推しによる派閥の構成や、オタクを叩くといった悪しき文化、また、ライブ配信特有のリアルタイムでのコメント送信という機能が相まって、コメント欄がかなり混沌としていることも珍しくありません。

実際に、2020年7月にはアイドル兼YouTuberとして活動していた鷹野日南さんが、YouTubeのコメント欄をはじめとする誹謗中傷が原因で、20歳という若さにして自死しています。

SNSによる誹謗中傷に対する法的措置と厳罰化

ここからは、インターネット上での誹謗中傷が法律のもとではどのように扱われるのか説明していきます。まず前提として、インターネット上での誹謗中傷は、十分に刑法による処罰の対象となり得ます。多くの場合では「侮辱罪」に、内容によっては「名誉棄損罪」に該当します。

2つの法律の共通点として、誹謗中傷を受けたのが「公然な場」である、つまり、不特定または多数の人に知られる、知られる可能性のある場であるという点です。不特定多数の人が自由に閲覧できるインターネットという場は、この条件を十分に満たしています。

侮辱罪と名誉棄損罪の違いについて

侮辱罪と名誉棄損罪の大きな違いは、その侮辱の内容にあります。「主観的な侮辱」ならば侮辱罪となり、「客観的な侮辱」なら名誉棄損罪となる可能性が非常に高いです。

例えば、「アホ」や「ブス」などの侮辱は、共通認識できるものではなく、あくまでその個人の感性に基づく主張なため、主観的侮辱とみなされ侮辱罪となりますが、対して、「~さんは浮気をしている」や「~さんは薬物を使用した過去がある」などは、見聞きした人全てが、その内容をその内容として共通認識できる、つまり、客観的な侮辱とみなされるため名誉棄損罪に該当する可能性があります。

木村花さんの事件後に行われた法改正

先述の木村花さんの事件以前は、侮辱罪では「拘留または科料(1万円未満の軽い罰金)」、名誉棄損罪では「3年以下の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金」。また、公訴時効については侮辱罪では1年、名誉棄損罪では3年となっており、名誉棄損罪の方が非常に重い罰が決められていました。

しかし、木村さんの一件に端を発して、侮辱罪の法改正がなされると「1年以下の懲役もしくは禁固または30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」へ変更となりました。また、公訴時効も1~3年になるなど、状況によっては非常に重い罰が科されるように改正されています。

これからのSNSとの歩み方

人の命が奪われてしまうとなると、「ネット上のやりとり」という一言では済まされるはずがありません。今回取り上げた事例は、TwitterやYouTubeが中心となっていますが、比較的小規模なLINEなどのメッセージアプリ上でのいじめによる自死も少なくありません。

私たち個人ができる最大限の抑止は、インターネット上とはいえ、状況やその人との距離感を見極める能力を身に付け、他人を過度に傷つけてしまう恐れのある発言は一切しないとことに尽きると思います。小さいことのように思えますが、多くの人が意識することによって、大きな抑止につながるのではないでしょうか。